Umamié交流会 in HAGI
Umamié交流会 in HAGI
2025年3月某日、福島県のいわき駅に4名のシェフが降り立った。いずれも、日本においてその存在が「あっ あの店の!?」と驚きを持って口にされるような料理人達だ。彼らが目指すはHAGI。HAGIを率いる萩春朋シェフは、初代機であるエイジングブースターが出たばかりの頃から使い始め、何をどのように熟成すれば食材がおいしくなるのかを貪欲に追求してきたシェフだ。新型機であるUmamiéにも、試用機の段階から関わってきたため、日本において最もUmamiéに関する知見が深い料理人といえる。
4人のシェフはUmamiéを使い始めて間も無い、もしくは使用経験の無い料理人たちだ。どの食材をどんな風にUmamiéにかければ、おいしさが増すのか。その技、使いこなし法を識るため、HAGIへ足を運んだのである。萩シェフはプロの料理人を迎えるために、食べればすぐに違いがわかるであろう食材をUmamiéにかけて準備し、待ち構えていた。そこにもう一人のUmamié使い手である小川翼シェフ(Knocking Kitchen)も、香川県からかけつけた。さて、4人の料理人は2人のUmamié使い手から、どんなことを学ぶことが出来るのだろうか。
(取材・文・撮影:山本謙治)
参加者紹介
「志摩観光ホテル」
樋口宏江 総料理長
樋口宏江 総料理長
「レストランオオツ」
大津高彬 スーシェフ
大津高彬 スーシェフ
「ジャヌ東京」
田村勝宏 副総料理長
田村勝宏 副総料理長
「なか武」
伊藤寛夫 料理長
伊藤寛夫 料理長
迎えるUmamié使い手
「HAGI」萩春朋シェフ/「Knocking Kitchen」小川翼シェフ
萩春朋シェフ/小川翼シェフ
いわき市の瀟洒なレストランであるHAGIに、豪華なメンバーが集まった。どのような問題意識でここに来たのだろうか。
志摩観光ホテルはサービスと美食で知られる名門中の名門。とくにフレンチレストラン「ラ・メール」は国内外の美食家がこのために志摩に訪れると評判の名店だ。
ホテルの5つのレストランを統括する樋口総料理長は、2016年に開催されたG7伊勢志摩サミットでワーキングディナーを仕切った実力者で、三重県の食材を愛し、伊勢志摩ガストロノミーに力を入れている。
樋口宏江総料理長
「Umamiéを試しているのですが、まだまだ使いこなしができていません。伊勢志摩の食材、とくに魚介類をどのようにおいしくできるのか、教えて頂ければと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。」
(樋口氏)
レストランオオツは、茨城県水戸市にありながらも各所からファンが訪れるフレンチレストランだ。クラシックスタイルのフランス料理をベースにしながらも、日本、とくに地元・茨城の食材の味わいを引き出した料理が高く評価されている。大津高彬氏はスーシェフとして父の大津高志シェフを支えながら意欲的な料理に取り組んでいる。
大津高彬スーシェフ
「茨城の食材を活かしながら料理をしています。HAGIさんは何度も来ていて、おいしいなあ、なんでこんなにおいしいんだろうと思っていたのですが、もしかするとUmamiéが大きな役割を果たしているのかもしれないと思い、今日は楽しみにしています。」
(大津氏)
ジャヌ東京は、あの世界的なラグジュアリーホテルブランドであるアマンの姉妹ブランドとして、麻布台ヒルズに開業したホテルだ。アマンと言えば、その地域の食文化や食材を大切にする思想でレストランが展開されている。海外からのゲストが本格的に日本に殺到する中、ジャヌ東京も魅力的な日本の食文化を発信することが求められているだろう。そのダイニングで和食の副総料理長を務めるのが、これまでも錚々たる高級ホテルやレストランで腕を振るってきた田村勝宏副総料理長だ。
田村勝宏副総料理長
「私の専門は和食ですが、ホテルには肉を扱う店もありますし、魚介類をメインとするところもあります。また日本料理だけではなく中国料理もあります。そうしたさまざまなジャンルの料理をお出しするところで、Umamiéはかなり面白い働きをするはずだと考えています。今日は勉強させていただきます。」
(田村氏)
なか武は美食家が集まる銀座にて、厳選された和牛と新潟県魚沼産のお米の中でも最高クラスと評価される銘柄米でゲストをもてなす店だ。そこで腕を振るう伊藤寛夫料理長も、田村氏と同様にアマングループのレストランで活躍した方である。Umamiéの得意とする、肉の熟成促進を最大限に活用できそうだ。
伊藤寛夫料理長
「銀座で和牛を売りにする店は多いのですが、熟成を特徴とする店はそれほどありません。そこで、Umamiéを使ってみたいと導入しました。ただ、まだ間も無いこともあって使いこなしができていない状況です。ぜひ活かし方を教えていただいて帰ろうと考えております。」
(伊藤氏)
さて、こんな錚々たるメンバーを迎えるのが、HAGIの萩春朋シェフだ。
萩春朋シェフ
「みなさん、ようこそ福島県のいわき市までおいで下さいました。今日はみなさんが実力ある料理人でいらっしゃるので、初心者向けにいろんな食材にUmamiéをかけてお出しするのではなく、食べればわかっていただけるだろうということで、中・上級編の出し方をしていきたいと思います。」
この萩シェフをサポートするのが、香川から駆けつけたKnocking Kitchenの小川翼シェフである。
小川翼シェフ
「香川からやって来ました。私はUmamiéの前に出たエイジングブースターの、その試作機の時代から触ってきました。さまざまな食材をこの機械に入れましたし、また半加工した状態の料理も入れてきました。そんな中で出会った萩シェフの料理には本当に感動しました。今回、お手伝いと称して、私も勉強させていただきます。」
このような豪華な布陣で会が始まったのである。
基本食材の比較
基本食材:水、チーズ、さつま芋
基本食材:水、チーズ、さつま芋
会のはじめに萩シェフが用意したのは水とチーズ、サツマイモだ。
「まず、基本的な食材を食べていただいて、Umamiéの代表的な効果を感じていただきたいと思っています。液体をまろやかにする効果、油脂分やたんぱく質を含んだ食材が柔らかく変化する効果、そして速やかに、かつ安全に脱水する効果をみていきましょう。」
ちなみに、Umamiéの設定はことわりがない限り庫内温度が0℃、中心温度が8℃、風量は強。この設定で多くの食品が対応可能だという。
「水」でUmamiéの「まろやか効果」を感じる
萩シェフが最初に取り出したのは、なんと水!それも、Umamié Waterとラベルまで貼られている。まだまだ硬さのみえる参加者一同の顔に笑みが浮かぶ。
Umamié Water
水の説明をする萩シェフ
「どんな食材もUmamiéにかけると変化が出るということを一番よくわかっていただけるのではないかということで、水にかけて見ました。ウィルキンソンの炭酸水と、ここいわき市の水を浄水器でろ過したものを炭酸水にしたもの、そしてそれをUmamiéに15分ほどかけたものを味わっていただきます。」
興味津々に飲み比べる参加者一同。口にすると、その顔に驚きと「やっぱりそうか」という表情が浮かぶ。明らかに、Umamiéにかけた方が、明らかに口当たりが柔らかくなっているのだ。この後、炭酸の入っていない水も登場。その傾向は同じである。
「Umamiéの効果はいくつかあるのですが、液体にかけたときに最も特徴的に出るのがこの『まろやかな口当たりになる』という効果です。水でこうなるのですから、調味料でも同じような効果がでます。」
(萩シェフ)
カマンベールチーズ
次に萩シェフが出してくれたのがカマンベールチーズ。それも高級なものではなく、よく売られている市販のカマンベールだ。その方が、効果の違いがよくわかるということで萩シェフが選んだものだ。
カマンベールチーズ
これも参加者が口運ぶと、すぐにUmamiéの効果がわかるような状態だった。かけていないものと比べ、内部がトロッとして口当たりがクリーミーになっており、味わいも濃く変化している。
カマンベールチーズを口にする参加者
「Umamiéに15分かけただけで、チーズ自体がトロッとして、うま味も増しているのがお分かりだと思います。なお、形を保つためもあって、パッケージのままでUmamiéに入れました。15分でこの変化がでるので、レストランはやらない手はない。時間が長ければよいというものではなくて、半日くらいがちょうどいいでしょうね。もし3日もかけてしまったら、溶けてしまうと思います。」
(萩シェフ)
カマンベールチーズを口にする参加者
「イタリアンの業態なので、チーズはいろいろ試しました。モッツァレラはフレッシュさが喜ばれるチーズですが、Umamiéにかけるとフレッシュ感が残っている状態なのに、うまみや柔らかさが増すので、なぜだろうと不思議に思いながら使っていました。チーズには油脂分やたんぱく質、塩分が含まれます。この3つの要素はどれもUmamié効果を強く受ける性質があるんです。ですから、チーズは効果がとてもわかりやすい食材だと思います。」
(小川シェフ)
サツマイモ
そして萩シェフが微笑みながら出してきたのが、3つのサツマイモが乗った皿だ。観ていただければおわかりの変化だが、これがどんな日数で出来たものかがトピックなのだ。
サツマイモ
「蒸かしたサツマイモのべにはるかを、左からUmamiéで3日間、真ん中が5日間、そして右端が10日間かけたものです。ごらんのとおり10日間かけると、カラカラに乾燥した『節(ふし)』になるんです。これをみていただくと、Umamiéの脱水効果がわかると思います。」
サツマイモの乾燥具合を確かめる参加者
サツマイモの乾燥具合を確かめる参加者
これをみたシェフ達、興味深そうにつんつんとつつき、その触感を確認する。
思わずであろう、ジャヌ東京の田村氏の口から「すごいッスね」と、その脱水の仕方に声が漏れる。それも、5日目と10日目のものを触ったときに、だ。
イモ節を削る
「うちは野菜を重視している店なので、あらゆる野菜で試しています。実は野菜をUmamiéにかけるときは、生の状態よりも調理をした後にかける方が、効果がわかりやすく出ます。3日かけたものは、ネットリ度が上がって、甘みや旨みも強くなっておいしい。さらに進むと強力な脱水が始まって、10日かけるとカツオ節のように挽けるようになります。」
そういって、本当に削り機でイモ節を削り出す萩シェフ。
削ったイモ節
これを食べたレストランオオツの大津氏が「これ、サツマイモ味のハードチーズみたいな味わいです。」と漏らす。
説明する萩シェフ
「そう、このUmamiéを使うと、お店オリジナルの節を作ることができるのが強みなんです。福島ではトラフグが揚がるのですが、大漁の時に仕入れて節にしておきます。そして、ソースヴァンブランなどを作る際にフグ節をちょっと加えると、ソースの味が一気に引き上げられます。
イモ節を削る萩シェフ
興味深いのは、自然状態で脱水・乾燥させようとすると、表面がダメージを受けたり、酸化臭が出たりします。でもUmamiéで脱水をかけると、細胞が壊れないのか、5日でも10日でも腐らず、綺麗な状態で安全に脱水できる。だから表面もツヤツヤして綺麗で、なにより雑味がないんです。」
フグ節を味見する参加者
萩シェフの言葉に「マイクロ波で振動しているから腐らないんだろうか?」などと推察しながら、みなフグ節の味見。
この、Umamiéをかけることで脱水をする際に、表面がダメージを受けないまま綺麗に脱水されていくという現象は、以前のフグ節の記事でも書いた通りだ。サツマイモのネットリからカラカラの脱水までをみて、さらにフグの話へと色んなところに飛んでいくので、4人の参加者も大変だが、みな驚きのまなざしをしつつ、食材をつつき、味わっていた。
さらに、カボチャを蒸して脱水したものや、バナナの熟成日数違いを味わう。
カボチャとバナナ
バナナはごく普通の、スーパーで買ったものですが、3日かけたものはそれだけでドルチェになるくらいの味わいだった。
イモ節を削る萩シェフ
「以前、香川の柿農家から、冷凍の柿を干し柿にできないか、実験をして欲しいと言われました。そこで、皮を剥いて冷凍した状態の柿をUmamiéにかけたのですが、2~3日で、表面の色も綺麗な素晴らしい干し柿になりました。ふつうに干し柿を作ろうと思うと2~3週間くらいかかってしまいますが、Umamiéだと数日間で、ダメージがない綺麗な状態のものができあがるんです。」
(小川シェフ)
このように、萩シェフ・小川シェフからUmamiéの3大効果である「まろやかにする」「柔らかくする」「すみやかに脱水する」の説明がなされ、4人の料理人はしっかりその効果を舌と心に刻んだのである。
この頃になると参加者一同、ほぐれてきて、いろいろと意見を交わすようになってきた。
「私の店ではやはり牛肉をメインに扱うので、和牛をUmamiéに入れています。まだ使い始めて間も無い状態なのでデータは少ないですが、和牛の脂が変化して、柔らかくなるというかマイルドになる効果があると思います。それ以外の食材も試してますが、湯葉は見た目は変わらないと思ったら、食べたら別ものになっていました。あと、イチジクやアプリコットといった果実も、入れると甘味が強くなるような気がしています」
(伊藤氏)
「当ホテルでは、解凍したホタテをUmamiéにかけて、そうでないものと食べくらべをしたことがあります。ホテルの調理部門ではない方に食べてもらったところ、『もう明らかに違う!』という反応で。そこですかさず『この装置、入れましょう!』と話したんですよ(笑)」
(樋口氏)
さあ、そしてここから、いよいよ萩シェフによるUmamié料理の時間が始まるのだ。
(つづく)
四国計測工業株式会社