「ようこそHAGIへ!今日はUmamiéの使い方としては両極にあるようなことをやってみましたので、楽しんでいただけると思います。」
と迎えてくれた萩シェフ。ここのところ、さまざまな料理人に対するアワードを授与されたりして、知名度が上がっているが、そんなことはおくびにも出さない朗らかさで、一行を迎えていただけた。「まずはですね、フルーツをUmamiéにかけてみたんです。以前からやっていたことなんですが、今回は狙いがあって、その辺のスーパーで購入した、なんてことのない、おいしくなさそうなフルーツに熟成をかけてみるとどうなるか、ということを実験してみたんです。」
Umamiéの主たる用途として、食材のうま味を増進するということが挙げられるわけだが、熟成にかける食材は肉や魚など、たんぱく質の含有量が多いものがその対象になることが多かった。フルーツを熟成にかけるという発想は、パティシエでなければ出てこないかもしれない。でも、いったいどうなるのだろう? ワインセラー内に設置されたUmamiéの庫内を見せていただくと、こんな風になっていた。
熟成にかけているのはイチジク、ブドウ、キウイ、ナシである。これらはHAGI近くのスーパー店頭に普通に並べられていたもので、もちろんプロ向けの食材ではない。
「設定は、庫内温度:0度・熟成温度:8度・風量:中、です。熟成期間が1日、3日、そして7日のものを用意しています。これがね、本当に驚くような変化をするんですよ。」
なんと、フルーツで一週間も熟成にかけるというのは、なんというか逆に贅沢な手のかけ方だとも感じる。すでにカットして熟成したフルーツをそれぞれ、盛りつけていただいた。
まずは見た目で、なるほどと思える変化が出ている。
熟成処理なし:
1日目:熟成なしのものと比べると、果肉が全体的に透明感が出てきている。
3日目:明らかに脱水された感が強くなっているが、イチジクやキウイの断面はまったくくすんでいない。
7日目:さすがに脱水が進み、ドライフルーツのようになっているが、色は鮮やかなまま。
この時、萩シェフがニコニコしながら驚くようなことを口にした。
「気づきました? それぞれ時間が過ぎるごとに水分が抜けているのはみておわかりになると思いますが、、、時間が経っても色が悪くなっていないと思いませんか? 普通ならカットして3日冷蔵庫に置いておくと、もう切り口が茶色に変色しちゃいますよね。でもUmamiéで処理している時には、それが出ないんですよ、、、」
なんと、それはどういうことだろうか? 下の写真はキウイを並べてみたものだ。右から処理していないもの、1日目、3日目、7日目の順となっている。だんだんと時が経つにつれ、色合いが濃くなってはいるものの、たしかに切り口が茶色く変化する、いわゆる褐変(かっぺん)はみられない!
どれもナイフでカット済みのものをUmamiéに入れているので、カット面が空気にさらされている状況だ。通常であれば目も当てられないような表面になっているはずなのだが、奇麗なものである。
「こちらはナシをカットして二日間、同様の設定でUmamiéに入れたものです。これも、ほんのちょっとだけ褐変しているところがありますが、でも全体的に見れば奇麗なものですよね。」
たしかに、褐変はゼロではないのだが、極めて微量に見える。カットして2時間ほど室内においておけば、このような状態になるだろう。しかし実際には、このナシは2日前にカットされ、Umamiéの中で空気にさらされていたものなのだ。庫内温度を0度に設定しているとはいえ、いったいなぜ褐変を抑えられるのだろうか。
「Umamiéの製造元である四国計測工業さんもまだ気づいていない、未知の作用がこのUmamiéにはあるのではないか、と僕は想像してしまいました。これについてはぜひ、追加試験をしていただければと思います。さあ、それではぜひ食べてみてください。」
と、褐変のない状態に驚いたまま、試食に入る。キウイから始めたが、結果は驚くべきものだった。何も処理していないキウイに対して、熟成処理を1日経たものは、まず全体的にしっとりとしており、明らかに質の高い低温調理を施したようになっている。だが、不思議なことにフレッシュ感は損なっていないのだ。通常、どんなに低温であっても火を通すと細胞内の生命活動が失活し、加工食品らしさが生まれるものだ。果物のコンポートを想像してみるとわかりやすいだろう。しかし、このキウイには「なまもの感」とも言えるものが存在している。そして、Umamiéの処理による脱水はされているので、味の凝縮がある。処理をしていない生の状態と比べると、比べものにならないほどにおいしい。
なお、3日目、7日目となるにつれ、ドライフルーツ感が出てきて、好みの分かれるところとなった。
「総合的にみて、一日目のものが最も商品価値があると思います。生のものとは明らかに食感と味の濃さに違いがありますが、フレッシュ感も損なわれていない。これ以降のものはドライフルーツ寄りになっていきます。ただ、7日間かけたものも、ひねた香りがなく、純粋に水分が抜けていった味わいを保っています。」
下はイチジクである。
これもキウイと同様の感想だが、やはり1日処理のもののおいしさ、変化の大きさがとてもビビッドに感じられるものだった。なまもの感はあるが、明らかに生のなにもしていないイチジクではない食感と味の凝縮感があるのだ。
この傾向は、ブドウもまったく同じものを感じられた。
「いかがでしょうか、Umamiéは肉や魚を使う人間だけではなくて、パティシエさんや製菓関係者にも有用だということが言えると思います。」
さて、フルーツでいきなり度肝を抜かれたが、これはまだ前哨戦である。萩シェフは、またフレンチの枠を軽々と超えるような試みをしていた。
「実は、福島県沖ではトラフグの漁獲量が増えてきています。このトラフグをフレンチとしてどう使うかということを考えていたのですが、、、どうしてもフグって、ポン酢と食べる日本料理にはかなわないと思っていたんです。ところがひょんなことから、このフグを節に、つまりカツオ節ならぬフグ節を作ってみようと考えたのです。」