Umamié交流会 in HAGI
Umamié交流会 in HAGI
食材を劇的に変化させる力を持つUmamiéが、多くの料理人の注目を集めている。その実力と効果のほどは、使ってみなければわからない。そこで、Umamiéに触れてまだ間も無い料理人、また、Umamiéのことは聞いていたけれども、食材にどのような変化を与えるのか知りたいという料理人を招待し、Umamié交流会を開催した。
日本各地の錚々たる4人の料理人を福島県いわき市で迎えるのは、Umamiéの初号機であるエイジングブースターから使い続けてきた、フランス料理界のUmamiéマイスターといえる萩春朋シェフ。また、同じく最初期からUmamiéを使いこなしてきたイタリア料理の小川翼シェフもヘルプに駆けつけた。Umamiéにかけた基本食材の食べ比べでは、すでに一同より驚きの声が連発された。そしていよいよ萩シェフが全力で臨むコースが始まる。Umamiéの使いこなしTipsを交えた座談会はクライマックスを迎えようとしている。
(取材・文・撮影:山本謙治)
参加者紹介
「志摩観光ホテル」
樋口宏江 総料理長
樋口宏江 総料理長
「レストランオオツ」
大津高彬 スーシェフ
大津高彬 スーシェフ
「ジャヌ東京」
田村勝宏 副総料理長
田村勝宏 副総料理長
「なか武」
伊藤寛夫 料理長
伊藤寛夫 料理長
迎えるUmamié使い手
「HAGI」萩春朋シェフ/「Knocking Kitchen」小川翼シェフ
萩春朋シェフ/小川翼シェフ
Umamiéコース料理
ニンジン
ニンジン
ニンジン
「さあ、それでは料理を食べていただきましょう。まずはニンジンです。」
(萩シェフ)
HAGI自慢の薪火が燃えさかるグリルで炙ったニンジンを、Umamiéに1日かけたものが主役。上にかけたソースはUmamiéで脱水したニンジンのソース。下に敷いたパウダーは、モッツァレラチーズをUmamiéで脱水・乾燥させてパウダーにしたものだ。これをよく絡めていただく。
ニンジンソースをかけたニンジン
ニンジン料理を口にする田村氏
一口食べて、田村氏が
「ニンジンの味が、とっても凝縮されている感じがしますね。」と。
本当に、ニンジンの持つ甘味やこっくりとした香りが実に強い。食べ比べがないので、Umamiéをかけていないものがどんな味なのかはわからないが、先ほどまでの効果を観れば、だいたいは推測できる。ニンジンの水分が脱水されることで、食感がネットリし、味わいがギュッと凝縮されているのだ。
ニンジン料理を口にする大津氏

「やはり、ニンジンは生ではなく、火を入れてからかけているのですね。」
(大津氏)

「そうです、野菜は生でかけるより、調理してからUmamiéにかける方が、違いが大きく出ます。どんな食材でも、下処理をしたら真空パックにしてUmamiéにかけるというので、グレードアップできるんです。」
(萩シェフ)

ニンジン料理
「ポン酢を自分達で仕込んでかけると、フレッシュすぎるとあまりよくなくて、それこそ熟成した味わいを出したいのですが、Umamiéはそういった使い方もできますか?」
(田村氏)
「それこそUmamiéの得意とするところです。ポン酢をUmamiéにかけると、数時間で酸味が柔らかになって一ヶ月ねかせたような味わいになります。しかも、ひねた感じの嫌な匂いがでてきません。」
(小川シェフ)
アワビ、カリフラワー
アワビ、カリフラワー
アワビ、カリフラワー
さあ、伊勢志摩から来てくれた樋口氏のことを想ってか、萩シェフがアワビを仕込んでくれていた。
「常磐アワビのよいものを仕入れました。これに火を通してから真空パックにして10分だけUmamiéをかけています。10分でどう変わるのかと思うかもしれませんが、まず柔らかさが増して、味が中まで浸透します。そして臭みが抜けて綺麗な香りになる。プロであれば明らかにわかる違いが出ます。あと、水分の多いお肉を脱水したいならドライでUmamiéにかけてもいいのですが、微妙な水分バランスを保ちたい場合は、食材を真空パックにしてウェットの熟成にする方がよい場合もあります。」
(萩シェフ)
「そう、うちでも魚介を熟成するときに、そのままマイクロ波をあてるのではなく、オリーブオイルに浸してマリネにしながらUmamiéをかけることもしています。その方が効果が出ることもあるので、魚といえば必ず、一匹丸ごとをそのままUmamiéにかけるもの、とは思わない方がいいかもしれません。」
(小川シェフ)
この二人の言葉に、三重県の豊富な魚使いが多い樋口氏は目を輝かせて聞き入っていた。
アワビ料理
アワビ料理
切り分けられた常磐アワビ、絶妙な火入れ加減である。そして、歯が心地よくスーッと入っていき、アワビの身肉がやわやわと引きちぎれる。ブリブリした活きの食感ではなく、気持ちよくほどけた食感である。
「アワビの磯臭さが消えてますね、ぜんぜん臭みがありません。何で蒸しているのでしょうか、水だけですか?」
(大津氏)
「はい、水だけで蒸しています。Umamiéをかけると、エグ味や臭みがなくなります。ただ、その生の状態での香りなどに特徴がある素材だと、その特徴が消えてしまうということにもなります。ですから私は、できるだけ一度火と味を入れて調理したものを、Umamiéにかけるようにしています。そうすると、よい特徴が消えずに表現できるのです。」
(萩シェフ)
アワビを食べながら、レストランオオツの大津氏が思わず漏らしていた。
「僕、萩シェフの料理がおいしすぎて、なんでこうなるんだろう、なんでこうなるんだろう。福島の素材ってそんなに素晴らしいのかな、と思ってたんですけど、、、今日わかりました。Umamiéが決め手だったんだ、、、(笑)」
試食する参加者
さあ、常磐のおいしい魚はまだ続く。
穴子
穴子
穴子
「火入れしたアナゴをUmamiéに15分かけました。よく脂が乗っていたので、脂肪細胞が分解するのと、肉質がフワフワに柔らかくなりますね。私はこれをUmamiéのマッサージ効果と呼んでいます。」
(萩シェフ)
穴子料理
穴子料理
表面が焼かれたアナゴは、その皮の下の肉質がフワッとしている。実はこの効果を出すかどうか、Umamiéの使い方によって違うという。
「生の状態でUmamiéにかけると、水分が出て、うま味が強くなっていきます。ただ、フワフワになるわけではありません。火入れをした後にUmamiéにかけることで、このフワッとした食感と脂質が柔らかくなるという効果が出るのですね。」
(萩シェフ)
伊藤氏
樋口氏
川俣軍鶏
川俣軍鶏
川俣軍鶏
さて、いよいよメインとなる肉、今回は福島県が誇る地鶏である川俣シャモだ。若鶏肉は50日未満で出荷されるが、地鶏肉は75日以上飼育することが義務づけられる。しかし、川俣シャモは110日以上飼育されるのが普通で、これだけ飼育期間が長いことで身肉はしっかり引き締まり、うま味が強くなる。ただし、若鶏の柔らかさに慣れた現代人にとっては「硬い」と思われることも多い。また、飼育期間が長いことで、うま味や香りが花開くのも時間がかかり、さばきたてだと味わいがあっさりと感じられることもある素材だ。そこでUmamiéのマッサージ効果の出番となるのだ。
「川俣シャモは地元の食材です。これをUmamiéのマッサージ効果を出すために、バットに並べてラップをかけたウェット状態で3日間、Umamiéにかけています。ドライにして熟成すると水分が抜けて、味が凝縮されることはあるのですが、水の抜け方が大きいので、全体の水分バランスが崩れます。味は濃いけどパサついていて、ジューシーでない。そうなるとおいしいと思えないですよね。ですから、塩を当てて真空パックにしてからUmamiéにかけるという方が、私の使い方としては多いです。」
(萩シェフ)
料理をする小川シェフ
川俣シャモに関しては、Umamié熟成をしたものとそうでないものを食べ比べする。まずは薪火で火入れした、Umamiéにかけていない川俣シャモ。火入れは小川シェフが担当する。
福島県が誇る地鶏だけあって、川俣シャモを薪で炙ったものはとてもおいしい! 地鶏肉らしい、しっかりした食感の肉質と、ゼラチン質が濃い、うま味のある肉汁が染み出してくる。Umamiéにかけずともおいしいこの地鶏肉が、Umamié効果を浴びるとどのようになるのだろうか。
軍鶏料理
「薪火に同時に二つの食材をかけられないので、Umamiéにかけた川俣シャモは、コンベクションオーブンで火入れしてフィニッシュしています。どんな素材でも、自分がどんな仕上げにしたいのかをイメージしてUmamiéを使う必要があります。例えば皮をパリッとしたいのであれば、皮を上にして、下側の肉の方にだけラップをかけてUmamiéをかけていきます。そうすると、肉の水分は失われずに皮を脱水できます。フランス料理的にうま味を凝縮させて、ソースとの相性をよくするなら、ドライで脱水してしまえばいいのです。今回はジューシーさを残してしあげたかったので、ウェットで3日間かけたというわけです。」
(萩シェフ)
軍鶏料理
軍鶏料理を口にする大津氏
これを食べた大津氏、ふーっと息をついて「別ものだ。これはまったくの別ものになっている」と。本当に、別ものだ。
軍鶏料理
先ほどのUmamiéをかけていない薪火焼きも実にストレートにおいしい地鶏肉焼きであった。しかし、Umamiéをかけただけで、まず口の中で噛んだときの、肉汁の溢れ方が全く違う。そして、地鶏肉とは思えないほどに柔らかい。頼りない柔らかさではなく、歯がスーッと心地よく突き通っていくような、硬さがほどけた柔らかさなのだ。そして、鶏に特有の生臭さなどはまったく感じない。
「肉質が全く違う感じがしますが、Umamiéの違いが大きいのでしょうか?」
(田村氏)
「そうですね、肉質がハッキリ柔らかくなっているので、そう感じると思います。さっきのアワビもそうですが、15分であれだけ柔らかくなるので、違いは大きくなります。自分の欲しい食感を合わせていくことが大事ですね。アワビを固めに食べさせたいなら、かけない方がいいですし、ヤワヤワにしたいならもう少しかけてもいいし。肉も同じです。」
(萩シェフ)
このように、Umamié前・Umamié後の明らかな違いに、参加者全員が深く感じ入ったのである。
軍鶏料理を試食する参加者
牛乳
牛乳
牛乳
アイスクリームの準備をする萩シェフ
さあ、そしてデザートだ。福島県の生乳を使って造ったアイスクリーム。これは、砂糖などを加えたアパレイユ(いわゆるソフトクリームミックスの状態にした生地)を作り、よく冷えたアイスクリーマーに入れて回し固める時に、Umamiéにかける。萩シェフ、皆が川俣シャモを味わっている時にいたずらっぽく微笑みながら、この作業をしていた。
こうして提供されたアイスクリームを食べて、声を上げたのがレストランオオツの大津氏だ。
アイスクリーム
アイスクリーム
「やっぱりこれだ! 僕はね、HAGIに来るたびに『乳製品がうまいなぁ』と思って、福島県産の牛乳やクリームを仕入れて、いろいろ試したんです。でも、フレッシュ感はあるんだけど、HAGIで食べたあの味ではない。萩シェフに聞いて『ん?普通のクリームだよ』とおっしゃるので、それじゃ何が違うのかと思っていたんですが、、、今日、それがわかりました。Umamié、すごいっ!」
(大津氏)
アイスクリームの説明をする萩シェフ
アイスクリームの説明をする萩シェフ

これを聞いて、萩シェフが笑いながら種明かしをする。

「やっぱりね、Umamiéにかけることで確実に柔らかい、マイルドな味になるんです。そのまろやかさが、フレッシュさと合わさって、おいしく感じられるのかな。」
(萩シェフ)

この辺は、HAGIに何度も足を運び、そのおいしさを体験している大津氏が感じるのだから、このアイスクリームの豊饒なおいしさがUmamiéに由来することは間違いないだろう。ただ、これもUmamiéにかけるタイミングが重要なのだろうと考えられる。アパレイユにした状態でUmamiéにかけたとしても、それほど味わいは変わらないかもしれない。アイスクリーマーを動作させ、回しはじめるところからUmamiéに入れることによって、仕上がりが変わってくるのだ。このUmamiéをかけるタイミングについては、料理人が注意してコントロールする必要があるだろう。
おわりに
Umamié Water
Umamié Water
コースをじっくりと、集中して味わっていたからか、参加者一同に少し疲れもみえるところだが、それでも目が爛々と光っている。それぞれの席に置いておいたメモにもギッシリと書き込みがされている。最後に、感想と質問タイムを持つことに。まずは志摩観光ホテルに今日戻らねばならないという樋口氏からだ。
感想を話す樋口氏
「今日は、実際に使いこなしている方のお話しを伺うことができて本当によかったです。この食材にはこの芯温と庫内温度でどれくらいに、という話はいろいろ聞けると思うのですが、もっと本質的な使いこなしについて学ぶことができました。Umamiéの活かし方も、単に柔らかくさせたり凝縮させたりするだけではなく、様々な効果があることもわかりました。また、脂肪分や水分を含んでいるものほど違いが大きくなることも興味深いですね。伊勢志摩の新鮮な食材に活かせると思います。」
(樋口氏)
続いては日本料理側から参加していただいた、ジャヌ東京の田村氏。
感想を話す田村氏
「今回の萩シェフ、小川シェフの料理のおかげで、仕上がりをイメージして、逆算して使っていくと言うことが大事なのだとわかりました。私も、食材を入れて熟成を促進するとだけ思っていたんですが、全く違う技術だったということがわかって、驚きの連続でした。ポン酢の話をしましたが、味わいが丸くなるというのは、これからの可能性を大いに感じます。野菜の変化もそうですし、サツマイモ節が出てきたのをみて、本当に驚きました。これをカウンターでやったら、お客様に楽しい驚きを提供できます。いろいろと試してみたい。」
(田村氏)
そして、最高級の和牛肉と選り抜いたお米を主軸に、日本料理も供するなか武の伊藤氏。
感想を話す伊藤氏
「私も、まだ使い始めですが、味噌や酒など、基礎調味料からUmamiéにかけて試してみようと思うようになりました。また、日本では酒もそうですが、発酵調味料もいろいろあります。それらをUmamiéにかけると、味わいも変わるのではないかと思うようになりました。いま、お肉とお米を売りにしていますが、その重みづけは今後変わっていくかもしれません。Umamiéを使ったら、いろんな食材がおいしくなる可能性が出てくるので、そこの情報交換をまたしていきたいなあ、と思っています。この食材はこうしたらこうなった、というデータを情報共有できるようにしていきたい。」
(伊藤氏)
そして本日、ずっとうんうんとうなずき続けていた、レストランオオツの大津氏。
感想を話す大津氏
「アワビはうちでもよく使う食材なのですが、それをウェットで15分かけるだけで、あんなにおいしくなるのかと驚きました。それだけではなく、乳製品も野菜もそうですし、UmamiéがHAGIのおいしさの重要な部分だったことがわかりました。うちでも使えないか、考えていきたいと思います。」
(大津氏)
樋口氏、帰りのタクシーを待つ中で、魚のUmamié使いで質問が。
「魚にかける時には、温度に気をつけるべきと思いますが、それ以外に考えておくべきことはあるでしょうか。」
(樋口氏)
質問に対応する萩シェフ
「まず、Umamiéでは食品衛生の観点から、魚や肉を10℃以下で保存しなければならないということを重視しています。そこで食材の中心温度を10℃以下にして、庫内温度を0℃に近い状態で冷やせば安全だろうということで、私は設定を芯温8℃の庫内0℃に設定しています。この状態だと、先の川俣シャモのような肉にもよい変化を出せます。ただ、獲れたての新鮮な魚だと、8℃の芯温は高すぎるかも知れません。もうすこし低めに設定した方が、デリケートな変化を得られると思います。
質問に対応する萩シェフ
また、カルパッチョのように食感が大事な料理にする場合、乾燥させないようにラップをしたり真空パックにしたりしたウェットの状態でUmamiéにかける方がよいでしょう。逆に、3~5日間ほどねかせた魚を出すときに、匂いが発生することがあります。この時にドライ状態でUmamiéにかけると、その匂いが消えてくれるという使い方があります。脂に臭みのある大型魚をソテーする前に、皮目だけラップを外してUmamiéにかけると、皮の下の脂が分解されて、臭みがなくなります。逆に言えば、香りや個性を消してしまうので、鮮度が高いときは使わない方がよいやり方です。」
(萩シェフ)
「それで、昆布締めをUmamiéにかけると、どんな変化があるでしょう?」
(田村氏)
「昆布締めは大きな変化があります! ヒラメや伊勢エビを昆布締めにしてUmamiéにかけると、とてもよい結果が出ます。とくに少し塩をあてて昆布締めにすると、塩もUmamiéでのよい反応があるので、その効果でなじみがよくなります。」
(萩シェフ)
「その時、ラップはかけた方がいいんでしょうか?」
(伊藤氏)
小川シェフ
「その魚の身質にもよりますが、ラップをかけている方が水分のヌケが急速すぎませんし、いいと思います。Umamiéを使っている料理人も、ラップなどをしてウェットでUmamiéをかける人の方が多いですね。」
(小川シェフ)
 こんな風に、さまざまな活用方法が飛び交う中、樋口氏を迎えに来たタクシーが到着。みなで「ウマミエ~」で写真を撮って、解散と相成ったのである。
参加者で記念撮影
今回、参加してくれた料理人が一様に言っていたのが「食材や料理をUmamiéにかけた時の結果を情報交換したい」ということ。仮称「Umamiéクラブ」を創設して、情報を共有できる仕組みを作りたいものだ。もちろん、情報をもらうだけではダメ。積極的に「この食材をこう処理して、この温度条件で何分かけたら、こうなった」といった情報を出していただける人が、参加できるクラブがあれば、Umamiéの使い手が一気に増えていく、素晴らしい展開となるだろう。
Umamiéのことを説明する萩シェフ
この交流会に参加してくれた4名の料理人に感謝。ぜひこれからUmamiéの使い手となっていただきたい。そして、ホストを務めてくれた萩シェフと小川シェフにも感謝。やはりUmamiéは素晴らしい日本の食文化を前進させる力を持っていると確信した。そして、その使い方はまだまだこれからも切り拓いていかねばならない状況だ。Umamiéの使い手になりたい料理人は、名乗りを上げていただきたい。
四国計測工業株式会社