和食素材の扱い方を検証
和食素材の扱い方を検証
(取材・文・撮影:山本謙治)
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伊藤寛夫シェフ
伊藤寛夫シェフ。
確かな技術を持つシェフだ。

加えてこの日、伊藤シェフの盟友であり、同じく銀座で薪火を用いた料理を提供する「銀座 炎 田むら(ぎんざ えん たむら)」の料理長を務める田村勝宏氏も駆けつけた。
伊藤寛夫シェフと田村勝宏料理長
両名は、福島県いわき市のHAGIフランス料理店で開催したUmamié座談会にも参加している。その折にはまだ、Umamiéの導入段階だったため、「勉強に来ました」というお立場だったが、そこから両氏とも、Umamiéの実力を肌で感じるようになったという。とくに伊藤シェフのUmamiéへの評価は高い。
「日本において銀座という土地は、最上級の場所というイメージがあると思います。ですからどうしても、高価な食材を使うことが前提になることが多いですね。ただ、Umamiéを使えば、一般的な食材や冷凍食材であっても、高級食材に匹敵する、あるいはそれとは違ったベクトルのおいしさに化けると感じています。今回は、それを検証してみたいと思い、食材と料理を選びました。」
(伊藤シェフ)
伊藤寛夫シェフ
Umamiéの庫内の食材
Umamiéの庫内には本日食べ比べをする食材や調理済みの料理が入り、Umamié処理をかけている状態だった。
Umamiéの庫内の食材
ここから伊藤シェフが、Umamiéを導入しておよそ半年ほど実験を繰り返してきた成果を披露してくれた。
結論から言えば、その結果は和食料理人にとって「驚き」の連続だったのである。
「乳製品」と「卵」が劇的に滑らかになる
生クリーム入り冷やし茶碗蒸し
生クリーム入り冷やし茶碗蒸し
まず供されたのは、見た目はシンプルだが、伊藤シェフが「乳製品への効果が一番わかりやすい」と自信を見せる一品だ。
生クリーム入り冷やし茶碗蒸し
Umamié設定:芯温5℃ 庫内温度1℃ 風量弱で2時間処理
アジの棒寿司
ウニの乗った高級な茶碗蒸しに見えるだろうが、この茶碗蒸しの地には生クリームを多めに加えている。これを、Umamiéにかけて処理したものと、していないもので食べ比べを行った。
冷やし茶碗蒸し
食べた瞬間に「んっ! 違うねぇ!」と声が出てしまうほどに味わいが違う! 未処理のものは卵と出汁の味が順を追って感じられる「いつもの美味しい茶碗蒸し」だが、Umamié処理をしたものは味が完全に一体化していて、舌に乗った瞬間に味わいが一気に感じられるのだ。
生クリーム入り冷やし茶碗蒸し
「いろいろ試してみて、Umamié効果を強く感じることが出来るのが乳製品なんです。この茶碗蒸しには生クリームが入っていることもあり、食感と風味に大きく変化が出ていると思うんです。今回、2時間のUmamié処理をしましたけれども、15分、30分くらいかけただけでも変化が感じられると思いますね。」
(伊藤シェフ)
伊藤寛夫シェフと田村勝宏料理長
「うん、全然違いますね。滑らかさが明らかに違い、Umamiéをかけた方は舌によく馴染むほどけ方をします。それと、味がよくまとまっています。伊藤さん、プリン屋さんになったら?って思うレベルですよ、これは(笑)」
(田村シェフ)
これまでの知見から言えば、卵にも油脂とたんぱく質が含まれるので、Umamié効果は大きいと思われる。そこに生クリームが加わっていることで、今回の茶碗蒸しの食べ比べは、圧倒的な違いを感じることができた。乳製品や卵液のようなエマルジョン(乳化)系の食材に対して、Umamiéのマイクロ波振動は成分を微細に撹拌・融合させるような働きをし、舌触りを劇的に向上させるのだろうか。その機序はまだわからないものの、とにかく「誰もが感じられる違い」を確認することができた。
「これね、例えば牛丼家とかで温玉を出しますよね。その温玉をUmamiéで15分かけたものを用意する。15分で大きな変化が出るなら、何回転もできるから、牛丼屋みたいなところでも極上の味のものを出せる。そう考えると、スケールメリットがありますよね。個人的にはね、プリンでUmamié効果をかけたら素晴らしい効果が出ると思うんです。僕、プリン屋やってもいいかな、と思ってます。」
(伊藤シェフ)
そんな、新たな可能性も匂わせてくれた伊藤シェフであった。
安価な冷凍食材が「高級な味」へ昇華する
自家製ツナのサラダ風
自家製ツナのサラダ風
続いて採り上げる食材がマグロだ。マグロは和食においては欠かすことのできない食材だが、問題もはらんでいる。特に最高級とされる本マグロは、つい最近まで水産資源が大幅に減少していたことから、サステナビリティに敏感な欧米の消費者からは「使用は控えるべき」という論調もあった。ここ数年は厳しい漁獲制限が功を奏し、資源量が上向きになってはいるものの、ここ10年以上は厳しく管理をしていかねばならない状況だ。
今回の伊藤シェフのマグロに関する提案は、この状況にも一石を投ずることができるかもしれないものだった。まず登場したのは、自家製のツナ。
自家製のツナ
自家製ツナのサラダ風
Umamié設定:芯温5℃ 庫内温度1℃ 風量弱で28時間処理(ソースも処理済み)
自家製のツナ
「今回、スーパーで売っている冷凍マグロを使ってツナを仕込みました。塩・胡椒をしたマグロのサクを、プラスチックバックにオイルと共に入れ、61℃の低温調理に1.5時間あまりかけています。そうしてできあがったツナをUmamiéにかけました。高級和食店で冷凍素材を使用することはほぼありませんが、Umamié処理をすることで、生に匹敵する味わいになる可能性があるということを識っていただくためです。」
(伊藤シェフ)
自家製のツナ
加熱をしてあるツナで、しかも油でコンフィ状になっているもので違いが出るのだろうか。そう思いながら食べくらべてみると、Umamié未処理のものは、どうしても繊維のパサつきや「いつものツナ」特有のムッとした匂いが残る。しかしUmamié処理されたものは、しっとりと柔らかく繊維感を感じない。また、マグロのような大型回遊魚に特有の臭みが消えて、上品な味わいに変化していた。
面白かったのが、マヨネーズのように添えてあるソースだ。これもUmamié未処理と処理済みのもので添えられている。
「うん、ツナは冷凍独特の臭みやパサつきが消え、身がほぐれるような柔らかさが出ています。ソースは、Umamié処理をしたものの方が、全体の角が取れてまろやかになっているのですが、酸味と塩味は逆にビシッと立っている。どちらも料理として一段階上にいっていますね」
(田村シェフ)
「今回は真空パックにする専用機械を使っていませんが、専用機を持っているところであれば、Umamiéにかけた後、そのまま販売できるクオリティに持っていけると思いますよ。」
(伊藤シェフ)
このように、加熱調理をかけたツナでの違いを感じさせながら、今回のマグロ編の本番となる。
冷凍バチマグロが「生のクロマグロ」に肉薄する瞬間をみた!
冷凍バチマグロ
冷凍バチマグロ
この日のハイライトの一つが、マグロの食べ比べだ。本マグロと呼ばれる生のクロマグロの同じ個体から三種、乾燥状態(ドライ)でUmamié処理したもの、ラップで包んで水分が飛ばないようにしてUmamié処理したもの、そして何も処理しないものを刺身にしていただいた。
Umamié庫内のマグロ
「私個人の感覚ですが、生のクロマグロはUmamiéにかけても、元が良すぎるためか、大きな向上は感じにくいですね。もちろん違いは出るのですが、ドライだと水分が飛びすぎて、全体的なバランスが悪くなるように思います。」
(伊藤シェフ)
Umamié庫内のマグロ
はたしてそうだろうか? 生のクロマグロの、Umamié処理をしていないもの、ラップに包んで処理したもの、ドライ環境で処理したものの順に食べてみる。
マグロ
Umamié処理なし
マグロ
ラップに包んで
Umamié処理
マグロ
ドライ環境で
Umamié処理
Umamiéをかけている、かけていないで、明らかに違いは感じる。ただし、伊藤シェフがおっしゃっているように、全体的な食べ心地からすれば、Umamié処理をかけていないものが一番、バランスがよいようにも感じられる。
マグロを手にとる伊藤シェフ
「なんでもUmamié処理をすればいいというものではなくて、素材の特性に合わせてやったほうがよいと言うことだと思うんですよね。今回の生のクロマグロについていえば、なにもしないものでバランスがよかった。ただし、仕入のコンディションによっては、Umamiéにかけた方がいい場合も出てくるかもしれませんね。」
(伊藤シェフ)
マグロを切る様子
さて、じつはマグロの実験はこれが本命ではない。伊藤シェフがもう一つUmamié処理をして用意していたのは、なんと冷凍バチマグロなのである。
冷凍バチマグロの鮨
Umamié設定:芯温5℃ 庫内温度1℃ 風量弱
冷凍バチマグロの鮨
写真左から、冷凍のメバチマグロを解凍した後、ラップをしないドライ状態でUmamié処理したもの、ラップをかけてUmamié処理したもの、そして何も処理しないものの順である。
3種類の冷凍バチマグロの鮨
外見からして、左が最も水分が飛んで、右がシットリしているように見える。 何も処理をしていない冷凍バチマグロからいただく。うん、回転寿司などで出てくるような、通常のバチマグロの味である。
次に、ラップをしたウェット状態でUmamié処理をしたものをいただくと、身質は明らかに変わって、ネットリ感が強くなり、うま味も強くなっているように感じられる。
これは素晴らしいな、と思いつつ、最後のドライ状態でUmamié処理したバチマグロの寿司を口に入れた途端、驚いた。
まったく違う味わいなのだ。
通常、冷凍マグロに見られる水っぽさや鉄臭さが完全に消え失せている。それだけではなく、冷凍マグロにみられる生臭さや血の臭い、過度な酸味などの、いわゆるオフフレーバーが一切なくなっているように感じられるのだ。ここまで言ってよいかはわからないが、生のクロマグロに近づいているといってもよいのではないだろうか。
冷凍バチマグロの鮨
「うん、これは大きな違いが出ましたね。冷凍独特の水っぽさが消えて、ねっとり感が出ています。黙って出されたら冷凍バチマグロだとは分からないレベルに昇華しています」
(田村シェフ)
「もちろん、高級店でこのバチマグロを出そうというわけではありませんよ。でも、安い素材をUmamiéにかけると、高級食材に負けないおいしさを発揮するというのは、素晴らしいことだと思います。なお、冷凍の本マグロをUmamiéにかける実験はまだ試みていません。これも、かなりの違いがでるかもしれませんね。」
(伊藤シェフ)
このように、和食の華ともいえるマグロという素材に関して、今後につながる余白を残しながらも、Umamiéが安価な食材のオフフレーバーを飛ばし、旨味やよい香りを凝縮させるという結果を提示。伊藤シェフの狙い通り、Umamiéは「安価な食材のグレードアップ」において凄まじい威力を発揮してくれたのである。
(後編に続く)
四国計測工業株式会社