和食素材の扱い方を検証
和食素材の扱い方を検証
(取材・文・撮影:山本謙治)
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6時間の漬け込みで2日分の味が入る「時短革命」
金目鯛
金目鯛
クリーミーな茶碗蒸し、極上のツナ、2種マグロの食べ比べと進み、いよいよ焼き物へ。日本料理においてパワフルな皿に、どのようにアプローチするのか。伊藤シェフが出してきたのは「西京焼き」などに代表される味噌漬けである。
「漬け魚は余計な水を脱水でき、味が浸透して素材がおいしくなる調理法です。ただ、味噌漬けに、粕漬けでも同じですが、漬け始めから素材に味が浸透するまでに、すくなくとも2日ほどかかってしまい、フレッシュさが失われます。また、塩分で素材の食感が固く引き締まってしまいがちです。それが漬け魚の持ち味でもあるのですが、、、そこで、Umamiéで処理することで、フレッシュさを保ちつつ、味を浸透させることができるのではないかと考えたのです。」
(伊藤シェフ)

そう言って伊藤シェフが出してきたのは、わずか6時間しか漬けていない金目鯛だ。
金目鯛の味噌漬け
Umamié設定:ヨーグルト味噌床と共に真空状態で6時間処理
金目鯛の味噌漬け
通常であれば丸2日はかかる味噌漬けを、Umamié処理を施しながら6時間。金目鯛の内部に味が浸透しきっていないのではないかと思ったのだが、、、下の写真をご覧いただきたい。身肉の細胞全域に、漬け地の要素が行き渡っているのがおわかりいただけるだろう。6時間で味が中心まで浸透している。そして特筆すべきは、その食感だ。
金目鯛の味噌漬け
口に含むと、一切塩をしていないかのような、ふわっふわの身肉の食感だ。でも、その身肉にはすみずみまで、味噌のあまやかで心地よい風味が浸透しているのだ! なぜこんな風合いが出るのだろうか。

「これは明らかに、普通の西京焼きと違いますね。味がしっかり入っているのに、身が締まりすぎていない。フレッシュな柔らかさを残したまま、2日間漬け込んだような熟成感がありますよ。」
(田村シェフ)

これに対し、にんまりする伊藤シェフ。

「そうでしょう? これは料理店にとっては二重のいい意味があるんですよ。まず、仕込みから出せるまでの時間を短縮できることで、魚という傷みやすい素材を、鮮度を保持した状態で調味できる。そして時短することは、利益率を高めることにもつながるわけです。冷蔵庫で寝かせている間は利益を生みませんからね。」
(伊藤シェフ)

伊藤シェフが語るように、塩分濃度の高い漬け地に魚を入れた状態でUmamié処理をかけると、長時間の塩分浸透による脱水を防ぎつつも、しっかりと味を入れることができる!このため、通常は引き締まった焼き上がりになりがちな漬け魚で、ふっくらとした焼き上がりを得ることができるのだ。そしてメリットは味の面だけではない。時短できることで回転率が上がり、傷みのリスクも回避できる。飲食店の仕込みの生産性が向上するという効能もあるというわけだ。

「さて、日本料理店でも肉を出すことが多くなっています。牛肉の味噌漬けも作ってみましたので。食べてみてください。」
(伊藤シェフ)
発酵の香りを纏わせるヨーグルト味噌漬け
ヨーグルト味噌漬け
ヨーグルト味噌漬け
伊藤シェフの言葉にもあったように、日本料理で肉料理といえば煮物やすき焼き風煮といったものが多かったと言える。それが近年のインバウンド向けの盛り上がりのなかで、ストレートに和牛の炭火焼きなどを提供する日本料理店も増えている。
ただ、そうした中で課題となっているのが、霜降り度合いの多すぎる和牛が多いことと、それをどのように味付けして出すかということだ。これに対しても、伊藤シェフはUmamiéをもちいた解決策を出してくれた。
まず肉料理として伊藤シェフが出してくれたのは、黒毛和牛(この日は山形牛)の味噌漬けである。

「ごらんの通り、A5の山形牛です。魚と同じように味噌漬けにしたのですが、今回は漬け地にヨーグルトも混ぜています。麹菌による発酵と乳酸菌による発酵の力を、Umamiéでさらにブーストさせてみようということです。」
(伊藤シェフ)
和牛肉のヨーグルト味噌漬け
Umamié設定:ヨーグルトと味噌の床に漬け、約28時間処理
和牛肉のヨーグルト味噌漬け
端正に盛り込まれた和牛の味噌漬けだ。火入れの熱源は炭火焼きだが、肉の表面は味噌が焦げることなく、綺麗な焼き色が着いている。そしてその断面をみていただきたい。A5らしく霜降りでサシの入った部分の照りが多いが、しっとりと水分も湛えているようにみえる。口に運ぶと、味噌の甘い香りが鼻孔に通るが、肉と噛むとジュッと和牛の脂、赤身のジュースが染み出て、予想以上にみずみずしい。
和牛肉のヨーグルト味噌漬け
「通常、肉を味噌漬けにすると浸透圧で水分が排出されるので、それを火入れするとパサついた食感になることが多いんですよ。ところがね、漬け地に入れた牛肉をUmamié処理すると、パサつきが一切なく、しっとりとジューシーに仕上がるんです。そして何より、香りが素晴らしいでしょう?」
(伊藤シェフ)

そう、この和牛肉、馥郁とした香りがとても素晴らしい! 味噌の香りだけではなくなんともいえない芳ばしいフレーバーを感じる。
伊藤シェフ
「同じ発酵食品であるヨーグルトと味噌を使っているからだと思うのですが、ドライエイジドビーフのような熟成香、ナッツのような香ばしい香りがするんですよね。脂もくどさがなく、綺麗な印象です。これもUmamiéによって引き出されているとしたら驚きですね。」
(伊藤シェフ)
ドライエイジドビーフのような香りというのは、たしかに感じることができた。これはヨーグルト味噌の香りだけではないだろう。和牛が持つ脂が分解したときに出る、ラクトン香のようなものがその奥に感じられる。ドライエイジングを牛肉に施すと甘い桃のようなラクトン香が発生することがあるが、それに近いものがあるのかもしれない。

そして、特筆すべきは脂の軽やかさが生まれていることだ。筆者はA5の和牛肉はなるべく食べたくないなあ、と思う者だが、脂身の香りがとても軽やかで、A5とは思えず、スイスイと食べ進めてしまった。もしかすると、脂のしつこさを生み出す要因自体もUmamié処理によって分解が進んでいるのかもしれない。

「でもね、和牛がおいしいのは素材がいいのだから、当然といえば当然なんですよ。Umamié処理の面白さを感じていただくために、もう一つ実験です。若鶏、つまりブロイラーのお肉を同じヨーグルト味噌で漬けたものをお出しします。」
(伊藤シェフ)
ヨーグルト味噌で漬けた若鶏(焼く)
牛肉の後に若鶏とは! ただでさえ濃厚な和牛を、味噌に漬け込んでいただくという濃い味わいの料理の後だと、インパクトも感じられないのではないかと思いながら、厨房を覗かせていただく。
ヨーグルト味噌で漬けた若鶏(切る)
若鶏肉もしっかりヨーグルト味噌に漬かっており、それに串を打って炭火で炙る。なお、先の和牛肉も同様に炭火で焼いたものだ。串を抜き、カットすると端正な日本料理の一皿に。
若鶏肉のヨーグルト味噌漬け
Umamié設定:ヨーグルトと味噌の床に漬け、約28時間処理
若鶏肉のヨーグルト味噌漬け
正直、あまり期待せずに口に運んだが、思わず目を見張ってしまうおいしさだ。地鶏や銘柄鳥ではなく、あくまで一般的なブロイラーを使用しているにもかかわらず、パサつきが一切なく、しっとりとジューシー。そしてゴージャスな香りが素晴らしい。

「普通の味噌漬けと全く違う仕上がりだよね。まず、水分がちゃんと保持されている。だから、柔らかいしジューシーに感じるんだよ。味噌漬けってもっと身が引き締まって、固くなっちゃうはずなのにさ。」
(田村シェフ)
若鶏肉のヨーグルト味噌漬け
田村シェフの驚きももっともなことだ。この写真の断面をみていただければ、甘鯛同様、身肉にしっかりと漬け地の味が染み渡っていることと、その細胞ひとつひとつがしっとりジューシーに仕上がっていることがお分かりいただけると思う。炭火による遠赤外線の火入れで、肉の芯まであたたまり、内部の水分の膨張によって全体がふんわりした食感となっているのだ。これが普通の味噌漬けだと、もっと水分がなくなって、ギュウッとした食感になってしまうはずだ。Umamiéは肉の水分を保持しながらも、漬け込みが全体に行き渡るようにする効果もあるということか。

「味もいいけど、何よりも香りがすばらしいんですよね。まず鶏に特有の匂いはまったくないですよね。今回は国産若鶏を使いましたけど、輸入の冷凍ブロイラーを使った方が、違いがよくわかったかもしれません。それと、味噌にヨーグルトも合わせたのがポイントかもしれないけど、なんだか鶏なのにドライエイジドビーフのような風味がありますよね。」
(伊藤シェフ)

たしかに、先の和牛肉でも感じた芳香が、若鶏肉でも感じられる。Umamiéが発酵調味料の働きを促進し、肉のタンパク質分解を進めると同時に、芳醇な香りを短時間で肉にまとわせたのだろうか。

「やっぱりね、Umamiéの素晴らしいところは、高級な食材を処理してもおいしいけれども、いわゆる「普通の食材」が飛び抜けておいしくなることかもしれませんよ。ちょっと、それを実感してもらうために面白いものを仕込みましたから、食べてみてください。」
(伊藤シェフ)

と、最後の隠し球が提供された。
温泉卵の劇的な変化に驚く
温泉卵
温泉卵
伊藤シェフが「実はこんなものなんですけど。」と出してくれたのが、何の変哲も無い温泉卵、いわゆる温玉だ。
温泉卵
Umamié設定:他品目と同様で2日間処理
温泉卵
「温泉卵を作って、Umamiéで2日間処理したものです。なんで?って思われるかも知れませんが、Umamiéをかけてない方と食べ比べればわかりますよ。」
(伊藤シェフ)
温泉卵
一さじすくって黄身を食べて、一同に衝撃が走る。なんとも大きな違いがある!

「これはスペシャルな黄身だな、まったく別ものになってるね! 舌触りがネットリ滑らかになっているんだけど、Umamiéかけたものは舌に細かくまとわりつくような食感。それと、味が大きく開いたって言うのかな、強い旨味になっている。Umamié処理していない温玉はたまご感があって、味がその後に来るんだけど、Umamié処理したものは味が全体的にまろやかになって、味わいがひとつにまとまっているイメージ。とにかく別もの、感動しちゃったよ。」
(田村シェフ)

田村シェフが感動されたように、Umamiéにかけた黄身は水分が適度に抜け、粘度が劇的に高まっている。水分が抜けて、まるでカラスミや熟成チーズのようなねっとりとした濃厚な珍味に変化しているのだ。

「これのきっかけは、たまごかけご飯なんですよ。まかないで食べてびっくりしちゃって、、、これだけで酒が飲めるし、この黄身を醤油漬けにしておにぎりの具にしたら革命が起きそうでしょ。この黄身に練りごまや醤油を合わせてソースにしてもいい。さっきの解凍バチマグロにこの黄身を合わせてスペシャルな丼にしたら、お客さんが驚くと思うね。ディナーならトリュフと合わたり、キャビアと合わせてもいいと思うくらいの素材に昇華されるんですよ。」
(伊藤シェフ)

「二日間かけてるってことだけど、半日でもきっと大きな違いが出ると思う。例えば和牛で牛丼を出す店を作ってさ、前日の終業時に温玉をUmamiéにかけて帰って、翌日の営業で出せるよね。むちゃくちゃ売れると思うよ。「伊藤さんの温玉」って名前つけて出したらいいんじゃない!?(笑)」
(田村シェフ)
伊藤シェフと田村シェフ
伊藤シェフの名前を冠した商品アイデアがでたところで、会は和やかにお開きとなった。今回の伊藤シェフによるアイデア検証で明らかになったのは、Umamiéが決して「高級店だけのマニアックな調理器具」ではないということかもしれない。伊藤シェフがみせてくれたのは、冷凍食材を極上の味に変え、数日間かかっていた仕込みを数時間に短縮し、かつ味わいをたかめ、ありふれた食材から未知の食感と風味を引き出すというものだ。これは、Umamié利用の裾野を広げる可能性のある取組だった。

料理人たちの探究心とUmamiéの技術が融合したとき、日本料理はさらなる進化を遂げるのかもしれない。この意欲的な実験をしてくれた伊藤シェフ、評価につきあってくれた田村シェフに感謝を捧げる。
四国計測工業株式会社